推薦メッセージ

荒井良雄さん

英文学者。元学習院大学文学部教授、元駒澤大学大学院教授、現在駒澤大学名誉教授。
著書に『シェイクスピア劇上演論』等多数。
ラジオやテレビの英語講座講師も長年担当。

[2008.6.7の公演をご覧くださった荒井さまよりメッセージをいただきました]

物語シアター第2回公演を聴く  

 朗読劇・物語シアターで、また一つ新しい朗読公演に出会った。マイクを使った小劇場での朗読劇である。前半は太宰治の朗読に適した短篇『走れメロス』を、椿真二が演出した。田中明生がメロスと語りを力強くて美しい台詞表現で格調高く演じ、朗読詩劇の高揚感が見事だった。王とメロスの親友などを演じた平野正人の好助演もあって、二人の役者による朗読劇は観客の想像力を刺激し、雄大な演劇空間の創造に成功した。これぞ朗読劇の定番と言える公演だった。

 後半は浅田次郎の『地下鉄に乗って』。小沼一家の複雑な家族構成をとりまく人物たちと空間がタイムスリップする「意識の流れ」のような文学だ。この難物を椿真二の脚本、葛西久の演出で、素晴らしい朗読劇に仕上げて見せた。中心人物の小沼真次を演じた堀井真吾が円熟期に入った演技力と朗読力で全体を引っ張っていく存在感が抜群。石山智恵、草尾毅、山口礼子、三輪勝恵などにベテラン俳優の阪脩が加わった適役の演技陣の好演で朗読劇(群読劇)ならではの感銘深い公演であった。

2008年6月9日 荒井良雄

[2007.12.1の公演をご覧くださった荒井さまよりメッセージをいただきました]

物語ミニシアターのクリスマス公演を聴く  

十二月はクリスマス・シーズン。町や家の飾りつけが、毎年少しずつ早くなっていく此の季節の初日、十二月一日の午後、堀井真吾が主宰する「物語ミニシアター」よるオスカー・ワイルドの「幸福の王子」と、浅田次郎の「ラブレター」の朗読を聞いた。会場は歌舞伎座の裏側が見える松屋通りと昭和通りが交錯したところを築地方向へ入って、すぐ左側に建つ三番館の八階、アジアンカルチャーセンターであった。

会場へ入ると、テーブルにはイタリアン風のランチの用意ができていて、五十人ほどの聴衆は、四、五人がテーブルを囲んで歓談しながら、先ず会食することから始まった。三十分ほど経ってから、会場の奥のテーブルと椅子を少し並べ替えると、そこが舞台になって、心温まる美しい音楽が静かに流れている中を、堀井真吾(王子その他の男性役)と岩男潤子(つばめ)と森秋子(ナレーションと幾つかの役)が入場して、「幸福の王子」の朗読である。森秋子の表現力満点の美声によるナレーションが、悲しく美しい愛と慈悲の精神を主題にしたクリスマスに相応しい物語の世界へ聴衆を引き込む。岩男潤子のツバメのセリフが生き生きと可愛らしく、堀井真吾の王子が孤独で純真で美しい心の持ち主である王子の心情を見事に表現していてた。この三人の声の演技のハーモニーが、聴衆の心を打った。クリスマスの季節に相応しい見事な朗読だった。ワイルドの原作が爽やかな日本語の朗読台本になっていた。

二十分ほど休憩があって、後半の「ラブレター」の朗読が始まった。堀井真吾が拘置所から出てきたばかりの元裏ビデオ屋の雇われ店長の役とナレーション、そして刑事や子分のセリフを一人で朗読した。それぞれの役どころを的確にリアルに朗読してみせる堀井の話芸が素晴らしい。そして売春の組織がらみで店長と偽装結婚させられた白蘭(パイラン)という女の店長に宛てたラブレターを、惨めな死をとげた白蘭(岩男潤子)が登場して朗読する。この朗読台本と演出と演技が、何ともやりきれなく、切なくて哀れで、涙をさそう。死後に残された二通の手紙を、純情そのものの白蘭になりきって朗読する岩男潤子の声の演技は、さすがに歌手だけに、感情の機微が細やかに表現されていて抜群。堀井とのコンビが新鮮だ。最後に岩男が持ち歌を一曲披露して、心に染み渡った朗読会は終わった。

堀井真吾が立ち上げた朗読劇「物語シアター」は、春に第一回公演を千代田区三番町のウイナーズパークで行い、秋には阿佐ケ谷のヴィオロンでミニシアターの試演として『山楸大夫』を上演したほか、各地での出張公演を経て、今回の初ミニディナーショーに辿りついた。来春は代官山にある小劇場での第二回公演が予定されていて、今回取り上げた浅田の別の代表作と、太宰治の『走れメロス』を朗読するという。声優によるラジオドラマの録音芸の魅力と、俳優による舞台劇のナマの臨場感の魅力の両方を併せ持つ「朗読劇・物語シアター」は、声優と俳優と歌手などが協力して作りあげて行く新しい群読劇の世界で、生の声のドラマ劇場として、さまざまな可能性を秘めているジャンルだ。感動と笑いが楽しめる物語を語り続けて欲しい。物語こそは、あらゆる芸術や演芸の原点なのだから。

堀井真吾さんの「物語シアター」への期待

堀井真吾さんが、「物語シアター」を始めるという。「待ってました!」と大向こうから声をかけたい。

最近は俳優や声優からアナウンサー、さらには一般社会人や学生に至るまで、朗読が大流行である。五十年前、木下順ニ先生や山本安英さんが朗読の大切さを強調なさって実践しておられた頃から、私も英語と日本語の朗読の研究と実践を始め、やがて世界で初めての「朗読シェイクスピア全集」を五年間で完読したのだが、その頃は朗読が話題になることは稀だった。それだけに昨今の朗読流行は嬉しい限りだ。

朗読には、その人の人格と技術の両方が、ごまかせないほど明瞭に表面に出る。人気俳優の朗読が、思ったほど良くなくて退屈だったり、名もない素人の朗読が魅力的で感動的だったりしたのを、私はこの耳で聞いてきた。

その点、堀井さんの朗読は、安心して楽しく聞ける。北朝鮮の拉致被害に遭った友人の物語を、止むに止まれぬ気持ちで、各地を朗読して回った経験が、「物語シアター」を立ち上げる原点になっているようだが、その前の堀井さんの芸歴が、朗読の表現技術に、深みと厚みを与えることは間違いない。

学生時代に、シェイクスピア劇原語上演に三本も出演し、マクベスを主演したのち、演出家・松浦 竹夫氏主宰の劇団での俳優修行を経て、舞台やテレビで活躍してきた堀井さんには、朗読者としての素質や資格が十分に備わっている。堀井さんの舞台や朗読を見たり聞いたりしてきた私が、「待ってました!」と声を掛けたくなるのは、そこにある。

いい作品を、持ち前の掛け替えのない人格と技術で、思う存分、聴衆に伝えていただきたい。私も今から、堀井さんの「物語シアター」を、拝聴させていただける日を、心から楽しみにしている。